シニアを動かす3つのステップ──ゆうちょ銀行×ハルメクが挑んだ、シニアのデジタルシフト支援とは

高齢者に向けたアプリの利用促進に課題を感じている企業にとって、シニアのデジタルシフトは今や避けて通れない重要テーマです。とくに、スマートフォン操作に不安を抱える層にアプリを届け、継続利用につなげるには、「使い方を伝える」だけでは不十分。行動変容を促す段階的な設計と、生活者目線のコミュニケーションが求められます。

本記事では、ゆうちょ銀行がハルメクと共に挑んだ「ゆうちょ通帳アプリの普及・利用促進」プロジェクトをご紹介。3つのステップに分けた施策が、どのように高い成果へとつながったのか──高齢者を対象としたアプリ普及・集客支援に成功した実践例をご紹介します。

目次

課題:信頼のある企業でも進まなかった「デジタル移行」 

長年、地域に根ざしたサービスを展開してきたゆうちょ銀行は、全国に2万を超える郵便局ネットワークを持ち、シニア層との接点も非常に豊富です。預貯金や年金、各種振込など、シニアにとっての「日常の金融」を担ってきた存在として、信頼感は群を抜いていました。 

しかし、そうした強固な接点や信頼があるにもかかわらず、デジタル領域では思うような成果が上がっておらず、大きな課題を抱えていました。 

「使ってほしい人」に届いていなかった

ゆうちょ銀行は、2020年に「ゆうちょ通帳アプリ」をリリースしています。このアプリの登録口座数は1,000万件を突破したものの、実際の利用者は若年層が中心。シニア層には十分浸透していませんでした。 

「使ってほしい層に届いていない」──これがゆうちょ銀行自身が認識していた最大のジレンマでした。 

解決策:ハルメクとの共創 

問題を抱えながらも、当初は「何から手をつければよいかわからない」という状態。解決するための方法を模索していたデジタル戦略部の担当者が、ハルメクのデジタル支援を紹介した日経クロストレンドの記事を目にし、ハルメクの活動に関心を持ったことが共創のきっかけとなりました。  

「コンタクトをとってみると、ハルメクから提案されたのは“仮説”ではなく“実証”。シニアのアプリ体験を実際に検証し、その“つまずき”を観察するユーザーテストからはじめることでした。」



ハルメクの深い洞察が明らかにした本質的な課題



このユーザーテストを通じて、ハルメクでは表面的な課題をさらに深掘りし、ゆうちょ銀行だけでは見えていなかった、より本質的な問題を明らかにしました。 

シニアの"第一歩"が踏み出せない

ダウンロード・SMS認証・口座連携といった初期設定は、シニアにとって心理的にも操作的にも高いハードル。実際の観察を通じて、具体的な改善ポイントが浮き彫りになりました。 

顧客理解とシニアに特化したUX設計の不足

社内ではシニアの「生の声」を聞く機会がなく、"生活者"としての実像に迫れていませんでした。「一言でシニアと言ってもデジタルへの適応度合は人それぞれであることは実際にユーザテストをやってみないと実感できなかったと思います。」と担当者は語っています。「シニアのボトルネックは何か」を正しく理解し、フォローする施策が必要であることがわかりました。

従来型プロモーションの限界 

店頭での口頭説明やチラシ配布では、シニアにとって「自分ごと化」しにくく、アプリの魅力や使い方が伝わりきっていないことも明確になりました。

意識変革のきっかけとなったユーザーテスト 

このユーザーテストは、社内の意識も変えました。特筆すべきは「できない」のではなく「適切なフォローが必要なだけ」だと気づいたこと。その体験が、プロジェクトを社内に定着させていく原動力となりました。 

ゆうちょ銀行では、こうした“行動変容”の起点をつくる取り組みこそが、シニアのデジタルシフトに必要だと再認識。調査からクリエイティブ、発信までを一貫して設計できるパートナーとして、ハルメクとの共創を本格化させていきました。 

ハルメクを選んだ決め手 

なぜ、ゆうちょ銀行はハルメクを共創パートナーとして選んだのでしょうか?そこには、3つのポイントがありました。

顧客理解に徹底的にこだわる姿勢  

ハルメクでは、独自の読者モニター「ハルトモ」を活用した定性調査を実施しています。これは単なるアンケート調査とは一線を画し、インタビューや生活背景の詳細な観察を通じて、表面的な回答では見えない深いインサイトを把握することを重視しています。

とくに評価されたのは、シニアを単なる"年齢属性"として一括りにするのではなく、"個としての生活者"として丁寧に理解しようとする視点でした。60代の女性でも、ライフスタイルや価値観、デジタルに対する意識は人それぞれ大きく異なります。そうした個人差を踏まえた上で、共通する課題や感情を見つけ出すアプローチに、ゆうちょ銀行は強い共感を覚えました。  

調査から制作・発信までを一貫して対応できる体制  

多くの場合、市場調査は調査会社、クリエイティブ制作は制作会社、メディア展開は広告代理店といったように、それぞれ異なる会社が担当することが一般的です。しかし、ハルメクは調査で得られたインサイトを、そのまま制作や発信まで活用し、ワンストップで対応することができます。

アプリの利用ガイドや店舗スタッフ向けマニュアルを、ハルメク独自の調査結果と編集ノウハウに基づいて制作できる点が高く評価されました。これにより、実用性と共感性の両方を兼ね備えたクリエイティブ作りを可能になり、「企業側の言いたいことば」ではなく、「シニアに真に伝わることば」で表現されたガイドが完成しました。

ハルメクというブランドの持つ信頼感と到達力

『ハルメク』は発行部数日本最大のシニア女性誌として、長年にわたってシニア層からの厚い信頼を獲得しています。ゆうちょ銀行の主要顧客層とハルメクの読者層には高い親和性があり、ブランドの信頼性を活用することで、プロモーション効果を確実に高められることも決め手となりました。

とくに、紙媒体が持つ信頼感、質の高いコンテンツ、そして読者の高いロイヤリティは、デジタルに不安を感じがちなシニア層にとって重要な安心材料となります。「ハルメクが推薦するなら安心」という信頼の連鎖が、アプリ利用への心理的ハードルを下げる効果も期待できました。  

これらの要素が複合的に作用することで、単なる広告出稿や一時的なプロモーションを超えた、持続的な関係性構築が可能になると考えられたのです。

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実践:3ステップでの共創プロジェクト 

ハルメクとゆうちょ銀行の共創プロジェクトは、シニアの心理的な段階に合わせて、3つのステップに分けて設計されました。それぞれのステップは独立したものではなく、前のフェーズで得られた知見を次のフェーズに活かす、段階的なアプローチとなっています。 

ステップ1:「シニアの心を知る」~ユーザーテストで金融アプリのボトルネックを探る 

デジタルUIUX調査

まず取り組んだのは、ハルメクの調査パネル「ハルトモ」を活用した、詳細なアプリのユーザビリティテストでした。ここで重要だったのは、シニアを一括りにするのではなく、年代・使用端末・デジタルリテラシーなどの要素ごとに細分化して対象者を抽出し、それぞれの利用シーンでのつまずきポイントを丁寧に洗い出したことです。 

この調査を通じて明らかになった主な課題は以下のようなものでした。 

【主な課題】 

  • 入力欄の認識ミス
  • UI配色の視認性の低さ
  • SMSコードの確認遅れなど

これらの課題は、開発者にとっては想定外の問題でした。「当たり前にできる」と思っていた操作が、実際のシニア層にとっては大きな障壁となっていたのです。 

シニア向けアプリ利用ガイド/社員向けFAQ制作

このデジタルUIUX調査で抽出された課題をもとに、実際のスマートフォン画面を使用しながら、1ステップずつ丁寧に操作手順を説明する包括的なガイドブックを作成しました。さらに、店舗の窓口スタッフ向けには、よくあるつまずきポイントから逆引きできる構成のマニュアルも作成。これにより、お客様から質問を受けた際に、迅速で適切なサポートが可能になりました。 

【ステップ1の成果 】

  • 全国のゆうちょ銀行および郵便局で、約90万部配布

  • 窓口で顧客対応をする社員からは「これを見てできない人は、そもそもアプリを使うべきではないほど丁寧」という高評価を獲得

  • スマホ操作の不安が軽減され、シニア層の心理的ハードルを下げることに成功

このフェーズを通じて、ゆうちょ銀行の担当者は「シニアの課題は解決可能である」という確信を持つことができました。 

ステップ2:「シニアの心に届ける」~ハルメクメディアでシニアとの接点を強化する 

ステップ1で解決策を見つけた後は、その情報を効果的にシニア層に届けるフェーズに入りました。ここでは、ハルメクが持つメディア力とブランド信頼度を活用して、シニアとの強固な接点を構築しました。 

ハルメク本誌広告出稿

次に取り組んだのは、雑誌「ハルメク」の「ネット活用」特集での戦略的な広告掲載でした。ここで重要だったのは、単なる商品紹介ではなく、実際のアプリ利用者の体験談を中心とした親しみやすい誌面構成にしたことです。 

「同じような年代の人が実際に使っている」「思っていたより簡単そう」といった共感を生み出すことで、シニア読者にとって身近で現実的な選択肢として認識してもらうことができました。

【ハルメク本誌広告出稿の成果】 

  • 広告接触率88.5%で、掲載広告の中で圧倒的1位を記録 

  • 読者アンケートで「内容がよくわかる」「興味を持った」などの高評価を多数獲得 

  • ハルメク読者からは「利用してみようと思った」「便利そう」といった前向きな声が多数寄せられる 

ハルメクブランドロゴ活用

さらに、ゆうちょ銀行のシニア顧客層と「ハルメク」ブランドとの親和性を最大限に活用するため、ステップ1で制作したガイドブックにハルメクのロゴマークを使用し、ブランドの信頼性を強化しました。 

全国233の支店において、「雑誌ハルメク」の最新号とアプリ利用ガイドブックをセットで配備することで、顧客が両者の関連性を認識し、情報への親近感を高めることができました。 

【ステップ2の成果】

  • ハルメクブランドとの協業により、シニアの信頼感と親近感を醸成
  • 読者の関心・態度に明確な変化が見られました 

ステップ3:「心を動かす体験」〜イベント・動画・誌面連動 

最終フェーズでは、ステップ1・2で培った理解と信頼を基に、実際の行動変容を促すための体験型アプローチを実施しました。

ハルメク共同イベント 

ステップ1のユーザーテストで「対面でのフォローの必要性」が明確になったことを受けて、東京・丸の内のKITTEで大規模な体験型イベントを開催しました。このイベントでは、単なる説明会ではなく、実際のアプリ操作体験やATMを使った入出金体験など、リアルな利用場面を想定した実践的なサポートを提供しました。 

【反響】

  • 定員100名に対し約300名が応募する人気ぶり 
  • イベント満足度は5点満点中4.84点という高評価 
  • 継続利用意向は97%という驚異的な数字を達成 

参加者からは「ATMに行かず振込できるのが便利」「災害時にも役立つ」という生活の質への影響を実感する声が多く聞かれました。とくに「時代の流れに乗り遅れないようスマホでお金を扱えるようになりたい」という声は、心理的ハードルの克服を象徴するもの。「取り残されたくない」という不安を、「新しいことにチャレンジしたい」という前向きな気持ちに変化させました。 

ドキュメンタリー動画制作 

このイベントを通じて、ゆうちょ銀行の担当者もハルメク読者の「活発さ」「コミュニケーション力の高さ」「周りへの伝搬力」を強く実感することとなりました。イベント当日の様子や、その後の参加者の生活の変化を追ったドキュメンタリー動画を制作し、HalmekUPやYouTubeで公開しています。動画での「口コミ」を広げていくことで、イベントに参加していないシニアに対しても「ゆうちょ通帳アプリ」への関心喚起をすることが狙いです。この動画は、今後同様の課題を抱える企業にとっても貴重な参考資料となることでしょう。 

イベント採録動画はこちら

【ステップ3の成果】

  • 継続利用意向97%という圧倒的な成果を実現

  • 家族への波及効果も確認でき、「夫にも勧める」といった声も多数聞かれる

  • シニアの特性(活発さ、コミュニケーション力、伝搬力)を実証

     

成果:施策前後での具体的な変化

この取り組み全体がシニア層の共感と体験を軸に構成されており、単なるマーケティングを超えて社会的意義のあるプロジェクトとして位置づけられました。施策前後のシニアの変化を定性的・定量的な両側面で見ると、以下のような明確な変化が確認できます。

施策前の課題

  • アプリの認知度は低く、若年層中心の利用状況

  • UI/UXでのつまずき(文字が読みにくい、次の操作がわからない)

  • スマホ操作への不安や抵抗感

  • 店舗窓口での案内対応にばらつき

施策後の成果 

  1. 理解・操作面での変化(ステップ1) 
     90万部以上のガイドブック配布により、スマホ操作の不安が軽減 

     

  2.  関心・態度の変化(ステップ2) 
     広告接触率88.5%を達成し、「利用してみようと思った」声が多数 

     

  3. 行動・習慣の変化(ステップ3) 

    97%の参加者が「継続利用したい」と回答し、「ATMに行かず振込できるのが便利」「災害時にも役立つ」という生活の質への影響を実感 

まとめ:「共創」で成果を出せることがハルメクの強み 

今回のゆうちょ銀行との取り組みで明らかになったのは、ハルメクが単なる広告枠ではなく、"企画・調査・編集・生活者との接点作り"すべてを一気通貫で設計できる伴走型パートナーであることです。 

「届けるだけでなく、動かす」──その支援こそが、シニアマーケティングにおけるハルメクの真価です。 

シニア層のデジタルシフトという困難な課題も、徹底した顧客理解を起点とし、段階的なアプローチで解決できることを、この事例は証明しています。高齢者のアプリ利用率向上や、効果的なシニアマーケティングの実現を目指す企業にとって、ハルメクとの共創は有力な選択肢となるでしょう。 

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シニアマーケティングで結果を求めるなら、ぜひハルメク・エイジマーケティングへご相談ください。今回のゆうちょ銀行との共創事例が示すように、シニア層の深い理解と実証に基づくアプローチは、確かな成果につながります。
貴社の課題に寄り添い、最適な解決策をご提案いたします。

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この記事の監修者プロフィール

シニアマーケティングLAB事務局

シニアマーケティングラボ事務局

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